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大地の交響楽:Van Dyke Parks

at 2001 06/01 00:19

◆いま、丸山健二の小説を読んでいる、「虹よ、冒涜の虹よ」という上下巻700ページ以上の大作である。

◆丸山氏の小説を読むのは2冊目である。彼の小説は基本的に分厚く、読みづらい。詩的な情景描写が延々と続き、全てを超越した第三者的視点でキャラクターの微妙な機知から、大宇宙の真理に至るまでを故意に混在させた語り口でドラマを進めて行くのだ。重い、ちっとも話が進まない、しかし、その壮大な語りは読んでいるものに何億年もの地球の歴史の一端が我々、今を息づいているもの達の生活につながっていることを感じさせてしまうのである。

◆最初に読んだのは「千日の瑠璃」、一日1ページ&1つの視点を使って、千日間、1つの物語を千の視点から紡いでいく小説だ。小さな山村の人々の因習的かつ矮小な生活、独善的で偏見に満ち溢れていて、しかし臆病で陰鬱な「とるにたらない」人々の持つ真理と、それを高らかに吟じ、愛し、包み込む大自然の人智を超越した力を描く丸山氏の筆は、一見、とても単調に感じるが、読み進めていくうちに、まるで全世界を包み込むような大きな交響楽――まるでモルダウのような――の波の中に自分がさらされているような感じがする。

◆たかが800字程度の小章の寄せ集めに過ぎない千日、しかしその一つ一つが微妙に絡まりあい、反目しあい、唯一無二の大きなうねりを見せていく、そんな丸山氏の文章に、いいしれぬ敬意を感じ、その重厚さ、単調さを分かってはいても、僕はページをめくってしまう。

◆大きな時代のうねりを感じさせる交響楽という代物では全くないが、Van Dyke ParksSong Cycleを聴いていると、アメリカで日々を送る人々の、血や伝統や因習や欲望を含んだ、生が見えてくるような気がする。そしてそれら全てを許し愛す大きな大陸の息遣いが聞こえそうな気がする。たかだか30分程度のアルバムなのに、アメリカの全てを語り尽くしている、そんな気にさせる不思議なアルバムだ。

◆公式っぽいHP→

超然とした意志:Fairground Attraction

at 2001 06/04 14:45

◆生きていると悩む事、迷う事、後悔することがたびたびある。

◆もう過ぎてしまったことなのに、どうしようもない事なのに、前を向いて挽回に勤めるほうが適策だったりして。あるいは、どうしようもなく迷う時。どちらも何物にも替え難かったり、冷静に考えればできもしないはずのことに果敢に挑んでしまった時の不安、思わず全てを投げ出して消えてしまいたくなることもある。

◆答えはわかりきっているはずなのに悩む、ぶれる、振りかえる。しなきゃいけないこと、したいことが自分を引き裂く。二律背反した2つの「したいこと」が出口のないラビリンスに自分を封じ込めてしまう。

◆そんな時、エディリーダーの声が心に痛く染みる。とてもおおらかな優しさと、何事にも立ち向かう超然とした態度。その二つがアルバム一枚を貫いていて、その意志の強さ・大きさに自分が萎縮してしまいそうになる。

Fairground Attractionの二枚目にして最後のアルバム(そして編集盤でしかないアルバム)Ay Fond Kissに針を落とすと、エディの透明な声が聞こえ出す。オープニングのJock O'Hazeldeanだ。まるで風に向かう母ライオンのように凛と背を正し、一点の迷いも後悔もない澄んだ声音を吐きだすこのアルバム、空中分解をしてしまったバンドの最終作という事でとても悲しいアルバムだ。

◆しかし、そんなゴタゴタには決して巻き込まれることのない音楽に対する熱意がレコード盤を通して伝わってくる。全ての悲しみ苦しみを乗り越え、エディは唄っている、今でも、そしてこれからも。

雨を乗り越えて:Peter Hammill

at 2001 06/06 14:09

◆雨にこのアルバムはとっても似合う気がする。元バンダーグラフジェネレーターのPeter Hammillのアルバムand Close as Thisだ。

◆静寂の中からゆっくり浮き上がってくるようなピアノの音色ーー不安感をもたらすような独特の和音ーーがオープニングを飾る。ほとんど重く確実な音を刻むピアノと、切々と訴えることで誠実さをかもし出すピーターの低い歌声以外、レコード針の雑音しか聞こえない。まさにひたむきで哀しげな雨の夜のBGMだ。

◆途中から入ってくる楽器も、MIDIで作ってはいるものの、決して雨音を邪魔するものではない。ピアノではどうしても表せない感情を伝える役割しかないのだろう。控えめに、そして効果的にメロディに絡んでくる。ピーターの激昂や感嘆をよりストレートに伝える仕事を着々とこなしている。

◆このアルバムでピーターは何を言っているのであろう。ジャケットの瞳のようにとても哀しげな音色でできあがっているのに、とても落ちついた印象を与えられるアルバムだ。感情を押さえているというよりは、人生の物語を達観できてしまったからこその落ちつきのようだ。このアルバムの中でどんなに叫ぼうと、どんなに嘆こうと、決して癒されることがないのは理解できている。だからこそ開き直って嘆いて見せることで、次の段階に進もうとしているかのようだ。その歌声と不協和音のような音色からは人生の哀悼を感じこそすれど、そこに狂気は感じない。心に響くのは、全く逆に、落ちついた安堵感である。どうしようもない哀しみに打ち勝つことで生の目的を見つけてしまったのであろうか。

◆何が哀しいのだ、ピーター? そして何を見つけたのか教えて欲しい。

◆雨音に似た音を紡ぐピアノとボーカルに、生きることの哀しみを考えさせられてしまった。

◆公式HP→。そしてとても詳しいファンページは→

愛すべきオヤジ:IAN DURY THE BLOCKHEADS

at 2001 06/07 12:33

Ian Duryが癌闘病の末、昨2000年の春に逝去したということを知ったのはつい先日、マッカートニーまでが参加するトリビュートアルバムの発売レビューでだった。

◆奇形のロッカー、パブロックの勇者、労働階級の英雄等々、彼をたたえる言葉は数知れない。俳優として、そしてロックボーカリストとして、そのハンディキャップを隠すことも利用することもなく、才能を最大限見せつけてくれた愛すべき男イアンデューリー、そして彼を支えつづけたTHE BLOCKHEADSの面々に杯を捧げたい。

◆まぁ、新譜を聞けないのは残念だが、彼の素晴らしい音楽の数々が再発されたのはとても嬉しい限りだ。ぼく自身は高校のときかな、コステロやニックロウらパブロックの流れでイアンを知ったのだけど、ジャケを見ての感想はこんな風だった
 「気持ち悪い外見だなぁ、昔は町内に一人はこういうオヤジいたよな。ヨダレたらして徘徊しているアブナイオヤジが」
あぁなんて無学な感想だろう。。。そして勉強のつもりで買った彼のベスト盤「Sex & Drug & Rock & Roll」(Demon盤、1984)、こんなタイトルだからピストルズやハードロックの様なんじゃないかと恐る恐る聞いたのだった。

◆しかし、スカやレゲエのようなまったりしたリズムに乗せて、のんびり気の抜けるような間抜け声で唄うイアン。盆踊りのような合いの手(!)まで入ってくる。。。なんか凄いぞ? これはなんだ?? そうだ、パブロックだった、呑み屋でオヤジが酔っ払って楽しむ音楽だったのだ。

◆歌のメロディも、メロディというにはとてもお粗末な呟き系、ぼそぼそと(たぶん嬉しそうに)「 Hit Me With Your Rhythm StickHit MeHit Me」なんてニヤつかれたり、もっともセックスやドラッグやRockから遠そうないでたちで「Sex and Drugs and Rock and Roll」なんていわれても。。。困りますなぁ。でも聴けば聴くほどなんか可愛く見えてきて愛らしくなって、楽しくなったものでした。

◆某所でイアンはイギリスではコステロより人気がある、コステロが本当の労働者ではないのに比べて、イアンは死ぬまで労働者の隣にいつづけたからだ、という内容のものを読んだ記憶がある。不細工で異形で自分たちと同じような暮らしぶりをしているオヤジが、自分たちの歌をのんびり、味わい深く歌ってくれる、そんな存在ってなんかイイよね。そんな愛すべき男だからマッカートニーまでが追悼に参加するんだろうな。

◆何言ってるのかよく分からなくなっちゃったけど、まぁ一回聴いてみてよ→CDナウ。公式HPは→

Love To The People:Curtis Mayfield

at 2001 06/12 17:07

◆近頃、心が狭くなっている。何かにつけて怒りやすく、何かにつけて傷つきやすい。ちょっとした一言に激昂しながら、別の自分はそんな行為を恥じてる。でも冷静な自分が自身をコントロールする事ができなくなっている。さまざまなプレッシャー・ストレスが溜まりすぎているのだろうか? しかし、自分の今までを考えると、どれもこれも大したことではない、少なくとも自分のペースを乱すほど大きなストレスにはなりそうもないことばかりだ。

◆元来が無鉄砲で大胆なくせに臆病で心配性な自分ゆえ、何かをした後に、延々と後悔/反省する事が多い(それがまた新たなストレスとなるのだが)。帰りの電車の中や、家で布団に入ってから、どうしようもない不安の念に駆られ、いても立ってもいられなくなる。五臓六腑がきゅぅっと縮こまり、自らの臓器を害する量の分泌物が滲み出てくるのが手に取るように分かってくる。

◆あんな風に言わなければ、もうちょっと他の方法が、面白い事を言ったつもりだったのに。。。そんな反省と羞恥と心配で自分が押しつぶされそうになるとき、ぼくはカーティスの歌声を聴きたくなる。

Curtis Mayfield、Marvin Gaye、Stevie Wonder、Donny Hathaway。70年代、ニューソウルの立役者たちはどうしてこんなに優しい音を出すのだろうか? おおらかで懐も深く、聴いているものの心を、やんわりほぐしてくれる。彼らのような音が世界中に溢れたら間違いなく争い事が激減するんだろうな。

◆99年にこの世を去ったカーティス、ぼくはベスト盤を一枚しか持っていない。だから多くを語る事はできないが、穏やかで気さくな人だったのだろうということは、その歌声からも汲み取れるし、色々な人が語っている。爽やかで現代でも勿論通じるアレンジの許、おおらかに愛を、人生を歌うカーティスの歌はどれもとても心に染みる。そして心が温まるだけでなく、腰も動いてしまうだからスゴイ(笑)。

◆そのベスト盤Move On Up the best of Curtis Mayfield...はNothing On Meの軽やかな金属音ではじまる。まるでAl Jarreauを思い出させるような爽やかさだ。そしてBack To The World、Get A Little Bitへと続く。歌の内容がどういうものなのかはわからない。しかし、柔らかくおおらかなカーティスのファルセットが全体の雰囲気を小春日和の優しい日差しのように変えてくれる。

◆ぼくのお気に入りの4曲目Hey Baby(Give It All To Me)が終わる頃には、体中の緊張感がほぐれ、座っているソファなり寝転んでいるベッドなりに自分が溶け出しているのが分かる。そして自分のすべてが世界と同化するために溶解し、溢れ出す。そこにはエゴもストレスも自他の境界もなくなっている。そんな気持ちにさせてくれるのがカーティスのファルセットだ。

◆90年の事故で半身不随になって以降も決して音楽を捨てず、音楽活動を再開したカーティス。再開後唯一のそして最後のアルバムNew World Order(写真下)の彼の表情を見てほしい。こんな顔をして最期を迎えたいものだ。

◆カーティスの公式ファンサイト。初めて彼を知った人はここを読んでほしい。試聴は→CDナウ。ちなみに冒頭の画像は彼の最大のヒット作「Super Fly」より。ぼくの持っているベスト盤の画像は見つからなかった。センチュリーレコードが93年に出した日本独自の編集盤だ。

セピア色の美女の笑み:Gregory Abott

at 2001 06/11 19:05

◆カーティスを聴いていたら、ハイトーンボイスばかり聴きたくなったのでGregory Abottをプレーヤーにかけた。このCDに手を伸ばすのは何年ぶりであろうか。カーティスと同じようなキレイなハイトーンボイスで、ミディアムテンポ、秀逸で甘いバラードに溢れたグレッグ。しかし、彼らは決定的に違うキャラクターだ。

◆カートの優しさは人生の苦しみ・哀しみを生き抜いてきたからこその優しさであり、万物に対する慈愛に満ちている。しかしグレッグの優しさは異性に対する愛情であり、恋愛の素晴らしさやその破綻の苦しさ、哀しさを超えて表現される優しさであろう。グレッグの曲調に合う映像は(過去を記号化する色である)セピア色の美女の笑みである。要するにグレッグは女好きのする男であり、女好きのする歌をつくるアーティストなのだ。

◆下卑た言い方だが、決してグレッグを軽んじているわけではない。POPSという大衆音楽において、恋愛は大切な(恐らくもっとも大切な)構成要素であり、恋愛の切なさや嬉しさを上手く歌い上げる歌手やそれを作り出すアーティストはPOPSにおいて最も大切なものであろう。

◆ぼくはグレッグの顔かたちが好きだ。知的なラテン系黒人。おおらかで上品で知的である。動く彼を見ると、この男に抱かれたくなる女性の気持ちがなんとなく納得できる(ちょっと濃すぎるけど)。

◆彼のファーストアルバムShake You Downは本当に良いアルバムだった。洗練されていて、甘く、そしてメロディアスで。ブラック/カリビアンのカテゴリーを超えて、広くPOP全体に、甘く穏やかでちょっぴり感傷的なラブソングを振りまいていった。

◆当時のブッラックコンテンポラリーの男性アーティストには、ルーサーヴァンドロスやフレディジャクソン、アレキサンダーオニールらがいたが、その中でもグレッグはスマートさにかけては誰にも負けなかった。ルーサーらがとことん黒いソウルボーカルを目指していたのに対し、グレッグの音はとてもソフィスティケイトされていたからだろう。知的で都会的で甘くライトなソウルボーカル、そして甘いマスク。。。あのまま音楽性を向上させていたら、彼はマービンになれたかもしれないなぁ。

◆試聴はCDナウ。公式ページは知りません。。。そういえば彼の名は「アボット」なの「エイボット」なの??

スランプ中(汗:Jeanne Moreau

at 2001 06/25 13:33

◆なかなか更新できない。忙しいのもあるからだろうが、心に余裕がないみたいだ。普段の生活で精一杯らしい。。。

◆だからといって音楽を聴いていないわけではない。昨日も5枚もCDを買った。たかが5枚で15000円近く、ヨーロッパもののCDは相変わらず高価だな。

◆その中でもっともお気に入りはJeanne Moreauのコンピレーションアルバム「つむじ風」Le Tourbillon

◆Jeanneとは誰もが知っているフランスの大女優。中学の頃見た「突然、炎のごとく」の中で彼女が口づさんでいた曲「つむじ風」が入っていたので聴いてみたのだが、これがとても心を和らげてくれる。

◆あの冷たく気高い顔立ちからは考えられないほど和みな歌声にちょっと驚きました。品はあるのだがとても懐が深そうで、音的にも聞き飽きない。涼しげな笑顔でさらっと頬を撫でてくれるような感じ。

◆しばらくジャンヌの声を聴きながらネタの仕込みに入るとしましょう

今月のオトシャベリへ、●アーティストリスト


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